RAZOR SHARP

忌野清志郎『RAZOR SHARP』

1987年2月25日に発表された『RAZOR SHARP』は、日本のロックシーンを牽引してきた稀代のヴォーカリスト、忌野清志郎が自身のソロ名義でリリースした初のオリジナル・アルバムです。RCサクセションでの活動と並行して制作された本作は、彼の音楽キャリアにおける新たな挑戦の記録として位置づけられます。

本作の制作は、RCサクセションがミニ・アルバム『NAUGHTY BOY』をロンドンでレコーディングしたことに端を発します。所属レーベルから再びロンドンでの制作を提案されたものの、RCサクセションの他のメンバーがこの計画に難色を示したため、結果的に忌野清志郎単独でのロンドン・レコーディング企画へと発展し、初のソロ・アルバムとして結実しました。

レコーディングは1986年9月から、ロンドンのメイソン・ルージュ・スタジオで行われました。サウンド面を構築するため、参加ミュージシャンは制作スタッフに一任されました。中心となったのは、英国の個性的なヴォーカリスト、イアン・デューリーのバック・バンドとして知られる「ブロックヘッズ」のメンバーです。彼らが持つファンキーで骨太なサウンドが、このアルバムの基盤を形成しています。ドラムに関しては、当初元ザ・クラッシュのトッパー・ヒードンが参加していましたが、制作途中でブロックヘッズのチャーリー・チャールズに交代するという出来事もありました。

さらに、アルバムには豪華なゲスト・ミュージシャンも多数参加しています。ブロックヘッズのリーダーであるイアン・デューリー自身に加え、プロデューサーとしても著名なギタリストのスティーヴ・ヒレッジといった海外勢。そして日本からは、サックス奏者の梅津和時、片山広明、ジャズピアニストの山下洋輔といった、国境を超えた才能が集結し、忌野清志郎の音楽世界に多様な色彩を加えました。

このロンドンでのセッションを経て、計13曲が完成しました。アルバムとしてリリースされたのは、アナログLP盤には10曲、CDにはさらに「MELODY MAKER / メロディーメーカー」が追加された11曲でした。しかし、アルバムに収録されなかった楽曲も含め、先行シングル「AROUND THE CORNER/曲がり角のところで」（カップリング曲「ちょっと待ってくれ」）や、セカンドシングル「E-JAN」として発表され、結果的に完成した全ての楽曲がファンの耳に届けられました。

このアルバム『RAZOR SHARP』に関する全ての制作活動は、レコーディングのみならず、アルバム・カバーの撮影やミュージック・ビデオの撮影に至るまで、一貫してロンドンで行われました。異文化の中で現地のミュージシャンと深く交流しながら音楽を生み出した経験は、忌野清志郎というアーティストにとって、その後の音楽活動にも大きな影響を与えたことでしょう。

『RAZOR SHARP』は、RCサクセションとは一味違う、よりソウルフルでファンキーなサウンドアプローチが試みられた作品であり、ソロアーティストとしての忌野清志郎の表現の幅広さを示す重要な一枚です。2006年にはデジタル・リマスター盤として再発売され、現在でも多くの音楽ファンに聴き継がれています。忌野清志郎の尽きることのない音楽探求心が結実した、まさに「鋭利な刃」のような輝きを放つアルバムと言えるでしょう。

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